無知の恥

 北海道立釧路芸術館で11月11日まで、風景写真家マイケル・ケンナ氏の作品展が開かれています。氏の作品は主にモノトーンでまとめられ、ひとことで言うと構図が巧みで、また「空気が写真に写っているよう」とも言えます。作品を見た瞬間の印象を保ちながらパネルのタイトルを読むと、実は思わぬところに主題があることを知らされたりと、遊び心も感じられます。
 釧路市のアートギャラリー協力会員である私たち夫婦はこのような特別展を1回ずつ無料観覧できるのですが、この写真展はもう1度料金を支払っても観ておきたいと話していたところで、今朝、非常に恥ずかしいニュースを北海道新聞の社会面で知りました。

 ケンナ氏が屈斜路湖畔の砂湯で出会い、その姿の移ろいを年や季節を変えて何度も訪ねて撮影していた老木が、この夏に伐採されてしまっていたというのです。

 伐採は安全上の理由でとのことですから、現地を管理する立場の人の判断は職務として尊重されるでしょう。また写真家の被写体になったからといって、いちいち現状を保たなければならないものでもないと思います。しかし。
 伐採されたのは8月初旬で、その月には屈斜路湖の水が川となって届くこの釧路で同氏の展覧会が始まりました。今回の展覧会を象徴する氏の代表作としてこの「ケンナの木」が展覧会のポスターを大きく飾っていたことを考えれば、伐採に関わった人の誰かひとりでもこの木のことに気がつかなかったのかとか、結果として伐採が必要との結論に変わりがないとしても、北海道の景色を愛して何度も足を運んでくれたひとりの写真家に、あらかじめ敬意を払った対応ができなかったものかと思ってしまいます。

 氏は伐採の事実を道内撮影時の協力者から伝えられたそうですが、その知らせにどう答えたのかは報じられていません。しかし彼が今回の件で北海道や北海道の人間にどんな思いを抱いたか胸中を察すると、私もとても恥ずかしい気持ちになるのです。

 倒れまいと風雪に耐える在りしころの「彼女」は、今ケンナ氏のサイトから見られます。

■Michael Kenna
http://www.michaelkenna.net/