私用のため休みます

 ずいぶん前のことですが、ある会社で管理職としてそれなりの高い地位でお仕事をされている方から「家庭の記念日を理由に有給休暇を取るなど、お客様に失礼だ」という意見をうかがったことがあります。学ばせていただくことの多い魅力的な方だっただけに、がっかりしたことを覚えています。

 その時には細かい意図を確認したり意見を交わしたりはしませんでしたが、おそらく管理職としての本音だったのだと思います。よく働いてお客様に尽くそうということなのでしょう。

 私は「緊急性や必要性の小さい理由(これらも個人の主観によりますが)での休暇取得は顧客に非礼」という考え方にはふたつの問題があると思っています。

 ひとつはコンプライアンス面です。有給休暇は労働者が自由に取得できる休暇です。不定休ですから職場やお客様との調整はもちろんいりますが、いわば定休日に休むことと同じであって、日曜日に休むのに日曜日であること以外の理由はいらないのです。休む理由によって失礼になるなら、どんな理由ならば失礼ではないのでしょうか。

 ふたつめはマネジメント面での問題で、従業員の休暇はお客様に対して組織の求心力を高めるチャンスだということです。
 例えば私が命に関わる重い病にかかっていて、ある医師を主治医として非常に慕っているとします。あるとき体調が思わしくなく不安に駆られて病院を訪ねたところその主治医が不在だったらどうでしょう。不在の理由が学会だろうと医者の不養生だろうと結婚記念日だろうと私の命には関係ありません。
 しかしそこで別の医師や看護師が「心配いりません。あなたの病状は我々も把握していますよ」と的確な診断と処置をしてくれたら、私の主治医個人への信頼はその病院全体へのものに広がるでしょう。担当者の不在はそのチームの他のスタッフとお客様がより踏み込んで接触できる絶好の機会なのです。これは顧客の利益にも適うはずです。

 私も一消費者として、特に生活に大きく関わる買い物、例えば家や車、生命保険などは「子どもの誕生日は仕事を休んで祝います」という感性を持った人から、そしてそれを建て前ではなく本音として理解し認めている会社から買いたいと思っています。